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No.131

introduction1
#刀剣乱舞
創作審神者の過去編。
 
 ぱあん、ぱあんと弦音がとある屋敷の一角にこだまする。
 屋敷と言っても、九州の田舎武士の屋敷である。都や鎌倉に住む官職を持つような武家とは比べるべくもない、質素で簡素な屋敷だ。
 ある程度の馬場兼庭兼鍛錬場がある、そんな屋敷である。
 その庭に大的が二つ並んでいる。どちらの的にも中心に矢が刺さっており、刺さっている本数は全く同じだ。
 的の前に立つのはもうじき元服を迎えるであろう年頃の少年が二人。
 一人は凛々しく意志の強そうな眼差しの少年。
 もう一人はままるで童女と見紛うほど美しい容貌の少年だった。
「…」
「…」
「おい隈曽丸。お前の矢、真ん中よりずれとるぞ」
 大的に近づきじいーっと矢の見分をしていた凛々しい顔立ちの少年が、美しい少年──隅曽丸を振り返った。どこか挑発を含んだ声音に隈曽丸はぴしゃりと言い返す。
「同じじゃ。お前と変わらん」
「ほう?俺には右にずれてるように見えるがなあ?」
「気のせいじゃ。()だ言いがかりはやめい」
「チッ」
「隼人丸貴様…」
 凛々しい顔立ちの少年──隼人丸が忌々しげに舌打ちするのを、隈曽丸は見逃さなかった。ぎろりと鋭い眼光を隼人丸へ向けるが、隼人丸はベーっと舌を出し更に煽る。しばらく睨み合いが続いたが、どちらとも無くはあぁあ…と大きく肩を落とした。
「…これで馬術も水練も弓もぜーんぶ引き分けじゃ。次は何にする?」
「…そうじゃな...何にするか…」
 隼人丸の問いに隈曽丸は頭を捻る。
 ──日置隼人丸と延時隈曽丸。二人は所領が近い日置家と延時家の嫡子であり、かつ両家は親戚関係にあるため幼い時から二人でよく所領内の子供たちを引き連れてあちらこちらで遊びまわり、時に何かにつけては競い合っていた。所謂幼馴染兼好敵手というやつだ。
 二手に分かれての石合戦、鷹狩り、競い馬、流鏑馬、犬追物、相撲に水練。あらゆる武芸を競い合ってきたが、何をしても引き分けに終わる。まさに実力博実力伯仲の二人だった。もうそろそろどうやって遊ぶ(競う)かのネタが尽きてきている。
「──ああ、そういや延時殿も大宰府に行っのか?」
 思考の海に沈んでいた隈曽丸を、隼人丸の何気ない一言が引き上げた。
 ──太宰府。最近何やら大陸から蒙古なる国が攻め寄せてくると、父や郎党たちが話していたのを隈曽丸は思い出した。
「行っと言ちょったぞ」
 遠い遠い東の果てにある鎌倉から、役人がぞろぞろとやってきて偉そうに指図するのを見た覚えがある。「鎌倉殿のご恩に今こそ報いよ」等と言っていたような。
 ご恩もなにも元からこの土地は我々の土地なのだが。東から来たなよっちい板東者に指図される謂れはない。
 しかし彼の大陸全土を統一した蒙古が日ノ本を九州から蹂躙せんとやってくるのならばそうも言っていられない。
 この土地は我々の土地。板東者にも、ましてや大陸の者になど奪われてなるものか。
「そうか。なら(いっとっ)ばっかい嫡子として互いに忙すなるのう」
「おう」
 当主である父たちは郎党を率いて蒙古を迎え撃つべく太宰府へと出立する。
 当主が留守の間、自分たちは嫡男として母の指導の下、残された者たちの世話をしたり領地経営を任される事になる。
「…蒙古は強えのかな」
 ぽつりと隼人丸が独り言つ。
 ――大陸の王朝は数百年毎に滅び、生まれ変わる。だが何度滅んでも中原に花開く王朝は、常に日ノ本の先を行く技術を有していた。
 此度の王朝は中原より北の、騎馬の扱いに長けた部族が立てた。それが蒙古――【元】だ。
 噂によれば、元は大陸の西の果てをも版図に治めたという。波斯(ペルシャ)印度(インド)よりもさらに西。大陸の西の方の世界など、九州の片田舎の武士の子どもには想像もつかないが、とにかく蒙古は強い。なんと言っても騎馬と弓の扱いに長けている。その力で宋を打倒し中原の華となったのだから。
 そんな敵に日ノ本のもののふは太刀打ち出来るのだろうか。
「分からん。父上は死んだら私に土地を譲っとかいう書状も書ていもしたが…」
「延時殿はぎっちいしょっな…父上は『死んだ後のこちゃ知たん』ってよ」
「お前の好きにせよちゅうことじゃろ」
「まあ好きにさせっもらうつもいだ」
 隼人丸は弓を片付け始める。空を見れば日が傾き、橙色に染まり始めていた。
 ──もうそろそろ、今日の遊びもお開きだ。
 
「じゃあぼっぼっ(もど)っ。次は…そうだな、剣術で勝負しよう」
「…剣術か、そうじゃな。それもいいな」

 ――生きて帰れたら。また、遊ぼう。畳む

二次創作